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Channel: 中村 仁 | アゴラ 言論プラットフォーム
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石破氏の出馬宣言の新著に欠ける勇気

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石破氏新著書影より:編集部

「政策至上主義」の表題が泣く

安倍首相の3選がもう確定してしまったかのような政治情勢です。岸田政調会長が総裁選不出馬を首相に伝え、先行きが固まりましたか。岸田氏が記者会見した時の表情は無念、残念、仕方ないかと、何とも歯切れが悪く、優柔不断そのものです。首相が禅譲を考えているとしても、将来、その器になれるかを危ぶむ人も多いでしょう。

野田総務相はすでに失格状態で、小泉進次郎氏が静観となれば、残る石破・元地方創生相がどこまで善戦するかです。そんな時に、石破氏の出馬宣言本とでもいうのでしょうか、「政策至上主義」(新潮新書)が出版されました。これがなんとも中途半端、かつ及び腰の本なのです。「1強の安倍首相」の不興を買うことを怖っているみたいですね。

石破氏が師と仰いだ1人が渡辺美智雄氏で、「政治家の仕事は勇気と真心をもって真実を語ることだ」との講演を聞き、それが政治家としての原点になったと、新著で書いています。それらしきことが所々にでてきます。一例は、安倍首相の支持率アップに貢献したであろう北朝鮮のミサイル発射の話です。

危機感をあおったアラート

ミサイルが発射されると、政府は全国瞬時警報システム(Jアラート)を通じて、北海道、東北、新潟など12道県に警報を伝えることになっています。17年9月の午前7時に、「建物の中、または地下に避難して下さい」と、NHKなどが放送で長時間、連呼したのを記憶してい視聴者は多いでしょう。石破氏は「この時点ではすでに着弾点は把握できていたはず」と、批判的に指摘します。

必要以上に視聴者の恐怖心をあおり、北朝鮮を悪者と印象づけ、安倍政権にすがるしかないという気持ちを抱かさせようとの計算が働いたのでしょうか。確か「見慣れぬ物体が落ちていた場合は、近づかないようにして下さい」というような放送もあったような気もします。

また、石破氏は「憲法改正に限らず、自民党内でのそれまでの議論を踏まえず、政府部内(官邸)のみで決定される政策が多い」とも、批判しています。消費税の使途を子育て、教育に拡大する方針を「初めて耳したのは、カーラジオから流れるニュースで、ひっくり返るほど驚いた」を絶句しています。確かに、安倍首相は党内議論を軽視する独裁者の意思決定を好んでいます。

「政策至上主義」に触れると、具体例として、「防災省」構想が目につきます。「過度の人口集中により、東京は災害に対して極めて脆弱。ドイツの保険会社によると、世界1位だ」と、指摘します。これに対し、官房長官が「内閣府に防災担当の部局が設けられている」と、即座に拒絶しました。

災害が発生する度に、首相が会議を招集し、指示を出すと、そのシーンがテレビで放映されます。いかにも陣頭指揮し、危機に対し指導力を発揮しているか、見せたい気持ち強いのでしょうか。首都直下型の震災でも起きれば、そんなパフォーマンスをしているひまはなく、専門部署が即座に連携して自動的に対応に動かねばなりません。石破氏の構想は検討に値します。

白書のような抽象論が目立つ

では、大きく見て、石破氏はどのような日本を作りあげていきたいのかとなると、「自立精神旺盛で持続的に発展する国づくり」を目指す。あるいは、「伸びしろの大きい地方の創造性・多様性を軸として、多様な価値観やライフスタイルを実現する」など、白書に出てくるような文言が目立ちます。

財政政策では、「国債を無制限に発行することはできない。国債依存度を下げていくべきだ」という常識論にとどまっています。社会保障政策では、「年金、医療、介護とある中で、自分のメインテナンスがきちんとしている人は、医療費や介護費を使わないので、年金を増やしてもいい」と、提案しています。面白い考え方であっても、具体的にどうやれば実現できるのか。

日銀が大量の国債を購入し、財政ファイナンス(財政資金の融通)で、財政規律が失われている問題では、「金融政策は日銀の所管ですから、私がどうこういうものではない」と、逃げを打ちます。実際は、安倍首相の強い意向で日銀にデフレ対策として、2%の物価目標、異次元金融緩和を飲ませたのです。総裁を目指すなら、今後、どうするか逃げずに語るべき大問題です。

安全保障政策、憲法改正では、得意の持論を詳しく紹介しています。その他は、抽象論が多く、安倍政権に鋭く切り込む勢いが足りません。付け焼刃で並べたような文言も多く、もっと入念に構想を練ってほしかった。安倍首相に挑むのなら、もっと迫力と勇気をもって臨むべきです。


編集部より:このブログは「新聞記者OBが書くニュース物語 中村仁のブログ」2018年7月31日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、中村氏のブログをご覧ください。


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