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Channel: 中村 仁 | アゴラ 言論プラットフォーム
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非核化費用を日本はどう捻出するか

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官邸サイト等より:編集部

財政赤字の拡大抑止には増税

米朝首脳会談でトランプ大統領と金委員長が、朝鮮半島の非核化を確認するとの共同声明を発表しました。非核化が本当に実現するのか評価が割れています。実現できなければ、膨大な非核化費用を日韓が引き受ける必要はなくなります。一方、安倍政権が本気で非核化を実現したいと思っているのなら、財源確保のために、増税の覚悟までしておくことが必要です。

財政状況は先進国で最悪ですから、安易に国債増発に頼るわけにはいきません。消費税の引き上げは使途を社会保障関連に限っていますので、北朝鮮関連に使うのは筋が違います。考えられうるとすれば、金融資産課税の強化でしょうか。源泉分離課税をやめ、総合課税に移行することです。

株高で家計の金融資産は昨年度1829兆円に達しました。家計の株所有は前年度比で11%も増えました。主に富裕層が潤っているので、狙うとすれば、ここでしょう。北朝鮮対策を強調し、高い支持率を維持してきたのですから、安倍政権は本気になって、財源を探しておくべきでしょう。

非核化にいくらの費用がかかるのか。北朝鮮が保有する核兵器、核物質、関連施設か査察で調べてみないと、計算できません。だから、政府関係者、核の専門家もほとんど何もしゃべっていません。米国のシンクタンクの一説によると、200兆円とか。金額はともかく、膨大な規模になることは間違いなさそうです。日韓が主に負担するとなれば、比率をめぐり両国が対立するタネがまた増えます。

記者会見でトランプ大統領は、「韓国と日本が大規模な支援をするだろう。われわれが支援する必要はない。米国は多くの場所で多額の支払をしている。隣国の韓国と日本が北朝鮮を支援する」と、いってのけました。「えっ」と、驚愕した人は多いでしょう。次に「事前にそんな約束ができているのか」ですね。「トランプだから事前の打ち合わせなんかしていない」と、考えるしかないでしょう。

最大の受益国むしろ米国

日韓が非核化の最大の受益国と、見ているのでしょうか。米本土に届く大陸間弾道核ミサイルが開発されたとのことから、米国が北の非核化に本気で取り組みだした。これが今回の米朝会談のきっかけとすれば、最大受益国は米国であるはずです。その米国が費用を日韓に押し付けるのは筋が通りません。

もっと驚いたのは安倍首相の発言です。「核の脅威がなくなることによって、平和の恩恵を被る日本が費用を負担するのは当然だ」と、気前のいい発言です。いったい、いくらかかるか、10兆か100兆円の単位か、考えて上での発言でしょうか。

日本のGDP(国民総生産)は5兆㌦、国家予算は100兆円です。韓国のGDPは1.4兆㌦、国家予算は日本の半分です。核廃棄のやり方によって、つまり核兵器、核物質の完全廃棄、施設の破壊、人材の転用をどの程度まで進めるのかで金額は左右されます。200兆円という試算が正しいと仮定すると、両国が国家予算1年分をつぎ込んでもまだ足りない。そんなことができるはずはない。

これらはすべて仮定の話ですから、関係者は真面目にはまだ考えていない。多くの関係者は、米朝合意の実現を疑っていますから、本気で試算しておく意味はない。意味があるとすれば、IAEA(国際原子力機関)による査察をどの程度の規模から始め、それにいくらかかるかでしょう。

財政基盤の強化に本気でない

私が疑問に思うのは、北朝鮮対策で資金がかかるだろうから、日本の財政基盤をしっかりさせておかなければならないのに、安倍政権は本気でなさそうなことです。財政健全化目標の達成時期を当初の20年度から25年度まで先送りすることを決めました。

しかも、財政運営の基盤になる経済成長率を3%台(名目)と高めに設定しています。成長率を底上げして税収が増えるように見せかけているのです。また、日銀のゼロ金利政策、財政ファイナンス(国債購入)を転換しなければならなくなる時期がきます。その時がくれば、すべての計算が狂ってきます。

さらに、自民党の安全保障調査会は、将来の防衛予算の参考値として、「GDP比2%(現在は1%)」に引き上げることを提言しました。恐らく、安倍首相の示唆によるものでしょう。現在の5兆円を倍にする計算です。どこからそのおカネがでてくるのでしょうか。

今回の日朝合意が達成できれば、安全保障環境は好転し、防衛予算の抑制効果がでてくるはずです。自民党の関係部会は「そうなったところで、今後、対中国政策を強化する必要があるので、防衛予算を増やしていく」と、みているのでしょう。

拉致問題を解決するために、安倍首相は日朝首脳会談を希望しています。金委員長が日本の足元をよんで、経済支援を要求してくるでしょう。それも半端な金額ではない。とにかく安倍首相の政治的生命線である朝鮮半島関連にこれからいくらカネがかかるか分かりません。そのためにも、財政再建をきちんと進めていくべきなのです。


編集部より:このブログは「新聞記者OBが書くニュース物語 中村仁のブログ」2018年6月29日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、中村氏のブログをご覧ください。


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