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Channel: 中村 仁 | アゴラ 言論プラットフォーム
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自衛隊の憲法明記が大騒ぎの平和国家

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自民党サイトより(編集部)

首相の独走が懸念材料

安倍首相は、年内に自民党の改憲案を決め、国会の憲法審査会に提出すると発言しました。来年6月には衆参各院で3分の2以上の支持を獲得して、改正を発議し、来年後半に国民投票を実施、2020年には改正憲法を施行したい意向です。最大の目的は自衛隊の存在を憲法に書きこむことです。首相の支持率が急落しており、首相は議席を減らしてしまう前に国民投票の実施に持ち込む腹積りで、焦りだしているみたいですね。

どの国にも自国を防衛する自衛権が認められ、それに必要な軍事組織を持つことは国際的な常識です。日本では、憲法に書いてなくても自衛隊が存在し、世論の大勢は自衛隊を認知しています。一方、憲法9条に「武力による威嚇または行使は、国際紛争を解決する手段としては永久に放棄する」とあります。「だから自衛隊は違憲である」という主張と、「だからこそ実態に合わせて憲法を改正すべきだ」という主張が対立してきました。

改憲反対論を整理すると、「憲法9条は戦後日本の平和のシンボルだった。それを失ってはならない」、「憲法改正に反対、違憲である自衛隊にも反対」、「憲法改正に反対。ただし、自衛隊はすでに存在しており、存在を黙認する」などですか。改正論は「憲法改正に賛成。自衛隊を憲法で認知するのが国家としての責務」、「憲法上、自衛隊を明記し、違憲訴訟が起こせないようにする」などでしょうか。

自衛隊なくして日本は存在できない

自衛隊が存在しなくて日本を防衛できると考える人はまずいないでしょう。「自衛隊は反対」という人は、ではどういう手段で国を自衛するのか、考え方を示す必要があります。「改憲反対」と叫ぶことは、平和主義者を装うことができるので、政治的なスローガンとして使うのに便利なのですね。問題はそこから先で、「自衛隊の存在そのものに反対」なのか、「自衛隊の存在は不可欠。そのためには憲法改正が必要で、違憲状態をまず解消すべきだ」のどちらなのかです。そこに言及してほしいですね。

議論を複雑にしているのは、9条が戦後日本の象徴のような存在でもあるからです。強硬な改憲論者の安倍首相も「武力行使の永久放棄」、「陸海空その他の戦力の不保持」といった9条1,2項目に手をつけることは断念したようです。「自衛のための戦力は認める」といったような表現を条文に付加することを検討していると、みられます。

安倍首相側にも問題はあります。まず、戦後70年談話(15年8月)で、「いかなる武力の威嚇や行使も国際紛争を解決する手段としては、用いてはならない」と断言したばかりです。野党などから、「談話との関係はどうなのだ」と突かれる可能性があります。「日本は侵略戦争をした。二度と行わない。そうした戦争のための戦力は持たない」と談話で表現しておけば、「自衛のための戦力はそれとは違う」という説明で通すことはできるのです。

70年談話の有識者懇談会の座長代理の北岡伸一氏は「日本は侵略戦争をした。ひどいことをしたのは明らか。首相それに触れるべきだ」と、指摘しました。これに対し、安倍首相は「日本は侵略戦争をしたことはない」という歴史認識の持ち主ですから、70年談話では、ぼかした表現で通しました。首相の保守タカ派的な持論が改憲論議では裏目にでます。

押し付け憲法論の錯誤

首相のもう一つの持論は「押し付け憲法論」です。占領軍が過剰な平和憲法を日本に押し付けたのであり、「みっともない憲法です。日本人が作った憲法ではない」(2012年)との発言です。それはどうでしょうか。終戦直後の吉田茂首相は「日本は自衛権も放棄した。近年の戦争の多くは、国家を防衛するためという名目で行われている。正当防衛権を認めることは戦争を誘発することになる」と、国会で答弁しています。多くの日本人は当時、そういう認識だったのでしょう。押し付け論を今頃になって持ち出すのですかね。

新憲法が制定された時は、「侵略戦争の放棄」が念頭に置かれており、その源流は「パリ不戦条約」(1929年)にあったとされます。占領軍が日本の新憲法に「戦争放棄」、「平和的手段」などをそっくり持ち込んだとみられます。ですから「自衛のための戦力は、それに当たらない」という解釈は十分に可能であるはずでした。首相は持論を修正しておくべきでした。

最後に。首相の憲法改正構想は、党内論議を経ないで、独走気味にあちこちの場で発言しています。党内における反論、異論を経た自民党案でなく、ご自分の安倍案があたかも自民党案になっています。安全保障面で日本は強くなってたとしても、何兆円もの財政資金が必要な高等教育の無償化は、日本の経済力を弱体化するでしょう。

消費税10%は2019年10月実施の予定です。そのためには2018年後半には方針を決めなければなりません。憲法改正国民投票の時期と重なります。また、先送りですか。「改憲なったが国力弱まる」はよしましょうね。


編集部より:このブログは「新聞記者OBが書くニュース物語 中村仁のブログ」2017年6月25日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、中村氏のブログをご覧ください。


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