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Channel: 中村 仁 | アゴラ 言論プラットフォーム
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五輪中止論を唱えない日本の新聞に落胆する

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商業五輪の協賛企業となった新聞の限界

民主主義社会に不可欠な言論機関を自認しているメディア、特に新聞の東京五輪に対する論調は優柔不断です。開催国の言論機関であるからこそ五輪中止論を率先して提言すべきなのに逃げています。

「無理に開催すれば、ごたごたが続く。開催中止の決断のほうが菅政権にとって大きな政治的功績になる」と、主張したらよい。強行開催より、開催中止のほうがはるかに決断力を要するのですから。

米国のワシントンポスト紙、ニューヨーク・タイムズ紙、英ガーディアン紙の中止論を自分たちの紙面で紹介することには熱心です。開催国であるからこそ、海外紙に先駆けて論陣を張るべきなのです。

Ryosei Watanabe/iStock

菅政権の危機管理意識の欠如、意思決定の鈍さを日ごろ批判しているのに、自分たちが当事者になると、言論機関としての役割を放棄する。「紙の新聞」の絶好の出番を逃しているのです。

その最大の原因は、開催国ということで、国内紙が五輪のオフィシャル・パートナー(読売、朝日、日経、毎日)かオフィシャル・サポーター(産経、北海道)としての契約を結んでいるからです。

おカネを払って協賛企業になると、広告企画、広告収入、自社宣伝の面で優遇され、多額のリターンを期待できます。系列のテレビ局も放映権料を払う見返りに、新聞の何倍ものCM収入が利益として入ってくる。

コロナ不況で広告収入が激減していますから、五輪はなんとしても開催してもらいたい気持ちです。その代償として、商業主義の五輪組織と一体になってしまっており、言論機関としての役割を果たせなくなっている。

新聞・テレビは五輪の利害関係者として取り込まれているので、公正、中立な報道ができない。五輪組織から距離を置き、中止論を唱える欧米メディアの論調との対比が際立つことになります。

IOC(国際オリンピック委員会)のバッハ会長が、広島で行われる聖火リレー(17日)の際に来日するはずの計画は困難になったようです。橋本JOC会長は「大変な負担をおかけするので難しい」と語りました。

緊急事態宣言を延期した日本社会の混乱、大阪の医療崩壊の現場を視察し、右往左往の菅政権を目の当たりにして、五輪開催が難しい状況に追い込まれているか、バッハ氏自身の目で確かめてもらうべきでした。

バッハ氏は是非とも来日すべきだったのです。「これでは五輪開催はとても無理だ」と肌身で認識できたに違いない。メディアからそうした指摘があって欲しかったのに、何も言わない。

NYタイムズ紙は「日本のワクチン接種は滞っている。五輪を開催する最悪のタイミングだ」、WP紙は「バッハ会長はぼったくり男爵で、開催国を食い物にする悪癖がある」と、容赦のない指摘です。

「大会開催を前進させている要因は『金だ』。収益のほとんどを自分たちのものにしている。日本はすでに当初費用を上回る2・7兆円をつぎ込んだ」ともWP紙は批判しています。

日本側はどうでしょうか。開催国なのに歯がゆい限りです。欧米紙の中止論に先行されてから、にわかに騒ぎ始めています。

産経社説は「中止ありきの議論が先走りするのは本末転倒だ。感染状況を可能な限り抑えるなど、先にやるべきことがある」(5/1日)と、菅政権擁護が目的らしい主張です。

読売は「ウイルルスの感染再拡大を食い止め、開催をより確実なものにしたい。中止や延期を求める声は根強い。感染対策をさらに強化してほしい」(3/23日)と、開催待望論が前提になっています。

朝日は「開催を強行したら国内外にさらなる災禍をもたらすことになる。変異株の流行という脅威もある」(4/23日)と、批判はします。さらに一歩踏み込んで「開催を中止せよ」とは主張しない。

毎日は「混迷する五輪の準備、危機への対応が足りない。観客制限の具体策を6月に先送りした」(5/1日)とまで書いても、中止要求をやはり明確にしない。混迷しているのは日本の新聞論調です。

安倍政権当時に五輪誘致にこぎつけ、メディアは「開催盛り上げ報道」に熱心でした。「五輪は最大の祭典、最大のイベント」という固定観念から抜け出せない五輪ジャーナリズムには失望します。

日本のメディアは、政権の開催スローガンにひっかき回されてきました。リオ五輪閉会式での「安倍マリオ」の登場は漫画でした。スローガンの「震災復興五輪」は無責任な思い付きで、破綻しました。

菅政権になってからも「人類がコロナに勝った証」、「世界団結の象徴」と、開催理念がころころ変わました。

最近、小池百合子都知事も「新しいトライアル。新しい五輪のモデルに」と、言い出す始末です。「それって何なの」です。当事者に開催理念がなく、政治利用が大きな目的なのです。

非常事態宣言は3度目で、政府は「17日間の短期決戦」と明言していました。それが月末までの延長となりました。3度、4度の経験を通じて、コロナウイルスの収束は予想できないことははっきりしました。

菅首相は「いつか事態が改善に向かうだろう」と、祈るような気持ちでしょう。その「いつか」には期待をかけられない。メディアはバッハ氏、菅氏にそう言ってあげるべきなのです。


編集部より:このブログは「新聞記者OBが書くニュース物語 中村仁のブログ」2021年5月9日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、中村氏のブログをご覧ください。


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